「株式会社トレンド」〜“家族の絆”が原動力のデザイン会社〜

島根県松江市嫁島町。卸団地の一角に、ひときわスッキリとした平屋の建物が佇んでいる。ここが、今回訪問した「株式会社トレンド」だ。
玄関をくぐるとすぐ目に飛び込んできたのは、障がいと共に生きる方のためのブランド「cocoe」の展示コーナー。色とりどりのアイテムが並び、空間に優しさと誇りが漂っている。

「こんにちは!」と、満面の笑みで出迎えてくれたのは、代表取締役の徳田裕成社長(人財塾8期・10期受講)。社員の皆さんも立ち上がって挨拶してくださり、思わずこちらが恐縮してしまうほどの温かさ。オフィスに足を踏み入れると、まるで誰かの家に招かれたような安心感が広がる。空気が澄んでいて、気がいい。壁際には3Dプリンターで制作されたユニークなオブジェが並び、社長や社員を模したフィギュアもちらほら。遊び心と技術力が共存している。
奥へ進むと、なぜかハンドベルと楽譜が。聞けば、近々施設で演奏会を予定しているとのこと。「今、絶賛練習中なんですよ」と徳田社長が笑う。この空間に流れるのは、ただの“仕事場”ではない。「オフィス×家族=トレンドの場」。そんな言葉がぴったりだ。
人財塾との出会い:迷路の中で見つけた光

徳田社長がトレンドを継いだのは26歳のとき。飲食業からの転身、年上の部下たちとの関係性、がむしゃらに走る日々——それでも、なかなかうまくいかない。経営の勉強会に参加しても、迷路の中をさまようような感覚が続いた。
そんなとき、経営者仲間の太田さんから「人財塾、受講してみらん?」と声をかけられる。父の葬儀で涙を流してくれた太田さん。「断る理由なし。やってみるか」と即決。「当時は、人を大切にする経営とか、坂本先生のことは全く知りませんでした(苦笑)」と振り返る。
人財塾での視察研修では、「日本でいちばん大切にしたい会社」受賞企業を訪問。そこで受けた衝撃は、今でも忘れられないという。
「うわー、こういう会社を作りたい!!」 その瞬間、感動の涙が溢れた。徳田社長にとって“感動ビタミン”は、経営の原動力のようだ。
行動が速い徳田社長。人財塾卒業後、坂本先生が主宰されている、中小企業人本経営(EMBA)プログラム1年コースに参加。全国の経営者たちと学び合い、コロナ禍であったが仲間や学びに刺激を受け続けた。そして芽生えたのが、「2028年までに『日本で一番大切にしたい会社』を受賞する」というチャレンジ精神だった。
葛藤と学び:迷走から生まれた「トレンド村」

人財塾で得た学びを実践すべく、社内チームを立ち上げ坂本先生が提唱されている「100の指標」に挑戦。しかし、形から入ったことが裏目に出た。社員満足度を追いすぎて、社内の空気がピリッとしなくなり、納期遅れやクレームが増加。お客様への意識が薄れていた。
「ここでハッと気づきました。外に目が向かないとダメだと」 方針転換を図るも、軌道修正は容易ではなかった。
そんなとき、鹿児島県の酒造会社の視察で出会った「あるもの」がヒントになった。視察先の社長が 「祖父が立てたビジョンが、気づけば一つ一つ実現できるようになっていました」 その会社では、ビジョンをイラスト化して社員に示していたという。
「僕も未来と理想をイラスト化しよう」 そうして生まれたのが「トレンド村」だ。

社員に発表した当初は「???だったと思います(苦笑)」と語る徳田社長。それでも対話を重ね、少しずつ理解と共感が育まれていった。徳田ノートには、ビジョン、社員への想い、夢や計画がびっしりと記されていた。 「少しずつですけれど、ビジョンが実現し始めているんですよね」 細目でノートを見つめるその姿は、なんだか過去と未来を行き来きしているように見えた。
社員インタビュー:内側から見たトレンド
突然のお願いにも関わらず快く応じてくださったのは、ディレクターの山崎さん(社歴10年)と管理部門の遠藤さん(社歴11年)。

「徳田社長ってどんな人ですか?」と尋ねると、 「理想がでっかい」「よく喋る人!」と即答。 「月1回は新しいことをぶちまける方ですよ」「また始まった〜って感じです(笑)」 「無茶ぶり度80%です!(大笑)」 それでも、みんな巻き込まれていく。トレンドでは、チャレンジが日常のようだ。

前職では経営者との距離が遠く、ビジョンなんて聞いたこともなかったというお二人。今では「夢やビジョンの話が身近で聞けますね」と語る。
働きやすさについて伺うと「家庭を大切にしてくれます」とお二人とも口を揃える。社員の家族構成や近況が社内で共有され、家族会も頻繁に開催されているという。だから自然に、身近に互いの家族の近況が話題に上がっているようだ。
「家族の時間を大切に扱ってくれるのは本当にありがたい」 「だからこそ、健康が第一です。一人休むとみんなが大変ですから」などの声が続く。トレンドでは「家族=チームワーク」なのかもしれない。
やりがいについては、「cocoe」の事業に触れながら、山崎さんが語ってくれた。 「やりがいとは、役に立つことですね」 障がいのあるお子さんを育てる母として、社会課題に向き合う日々。その言葉には、深い重みがあった。
未来へのまなざし:希望をつなぐ経営
社員さんのインタビュー後、「社員のコメント、どうでした?」と徳田社長。 「社長のコメントよりいいかもです」と答えると、「ええっー!マジですか」と苦笑い。

最後に、トレンドの未来について伺った。
「今、日本は世界でも初めて体験する『超少子高齢化社会』を迎えようとしています。子供や孫の世代が希望を持てる社会を残したい」 そのために、トレンドでは「家族との絆」を軸に事業を展開している。
「地域も日本も、家族の集合体なんです。だからこそ、家族の幸せを広げていくことが、社会の未来をつくることにつながると信じています」
そして、社員が社長になり、事業を担っていく未来を描いているという。 「これから、トレンドは何をやるつもりですか?」と聞くと、「まだ秘密です」とニヤリ。「乞うご期待です!」と何やら企んでいる様子。楽しみにしてその時を心待ちたい。
編集後記
「株式会社トレンド」を訪れたその瞬間から、空気が違っていました。澄んだ空気、あたたかな笑顔、そして壁際に並ぶフィギュアたちが語る“遊び心と技術力”。それは、単なるデザイン会社ではなく、「人と人とのつながり」をデザインする場であることを物語っていました。
徳田社長の語る「感動ビタミン効果」は、決して抽象的な言葉ではなく、社員一人ひとりの心に染み渡っているなーと実感でした。迷走も葛藤も、すべてが「トレンド村」という未来のビジョンへとつながっている。社員の皆さんの言葉からも、社長の“無茶ぶり”が愛されている(?笑)こと、そしてそれが挑戦と成長の源になっていることが伝わってきました。
「家族との絆」を軸にした経営は、これからの島根県に必要な“希望の設計図”なのかもしれません。トレンドが描く未来は、きっと誰かの人生を照らす灯になる。そんな確信を胸に、株式会社トレンドを後にしました。
徳田社長、社員のみなさま。貴重なお時間ありがとうございました。次回も、しまね人財塾ネクストの“OB訪問レポート”をお届けします。どうぞお楽しみに。
【今日の問い】 経営者として、「社員」に「社会」にビジョンを示せてますか?
訪問企業・会社DATA(2025年8月)
社名 株式会社トレンド 代表者 代表取締役 徳田 裕成 所在地 島根県松江市嫁島町11-22 創業 2007年(平成19年)3月8日 資本金 300万円 スタッフ数 9名 ホームページ https://www.thanks-trend.com/ 事業内容 ・デザイン制作・各種印刷 ・3Dデータ制作・3Dプリント
・障がいと共に生きる方のためのブランド cocoe運営